英語をより深く理解するための英語史【中級者・上級者向け勉強法】

英語をより深く理解するための英語史 学習法
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1.はじめに

 ごきげんよう!椎名まつり(@417matsuri)です。今回の記事では「どうすればより高いレベルで英語を理解できるのか」という話題について考え、私からの1つの提案として「英語の歴史に学ぶ」という学習法、つまりは「英語史から英語を学ぶ」という方法を紹介していきます。

 なお、この記事は後述する理由により、一通りの文法を身に着け、ある程度の語彙力を持つ英語学習者の方最低でもCEFR B1レベル)、言語としての英語そのものへの関心が高い方に向けて書かれているため、英語を習いたての方には難解である上、英語が苦手な方が読むとさらに嫌悪感が増すこととなりますのでご留意ください。CEFR B1レベルが分からないという方は以下の参考記事をご覧になってください。

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2.なぜ英語史を学ぶのか

 そもそも、この記事を読んでいる皆さんは、どのようにして英語を学んできたでしょうか。たとえば、学校や塾・予備校の授業で多くの文法規則・単語・英文などを暗記させられた人が多いかと思います。あるいは、高校受験・大学受験や検定試験のために大量の英文を読み、書き、聴いてきた方もいることでしょう。そして、現代の英語教育においては科学的根拠を持つ手法(Communicative Language Teaching)が最も優れていると言われており、そうした理論に基づく教育を受けた人もいるかもしれません。このように、英語を学ぶ方法というのは非常にバラエティ豊かであり、それぞれの手法にメリット・デメリットが存在しています

 では、今回紹介する「英語史から英語を学ぶ」ことにはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。いくつか紹介をしていきます。

英語史を学ぶメリット
  • これまで学んできた英語の規則に、歴史的な説明を与えることで、より深く・合理的に英語を理解できるようになる
  • 文法的な例外などの暗記事項に、歴史的な理由が説明されることで、より論理的に英語を理解できるようになる
  • 英語の変化についての歴史を知ることで、英語の多様性についての理解が深まる
  • 英語が持つ不規則さ(特に発音・アクセント)には歴史的な要因があることを理解できるようになる
  • 英語の歴史を知る中で、英語学・言語学一般に対する知識をも得ることができる

 英語学習者のレベルアップという観点から見ると、最初の2つのメリットが非常に重要で、英語史を学ぶことで英語をより立体的に理解することができるようになります。たとえば、これまではただ暗記するのみであった英文法や英語の語彙に対して、歴史的なストーリーによる説明が加えられ、文法規則などがより記憶に定着しやすくなります

 これは、人間の記憶のシステムのことを考えると、理にかなった方法であることが分かります。人間の脳は感覚記憶、短期記憶、長期記憶という3種類の記憶方式を持っていることはよく知られていますが、1つの事柄に対して、より多くの関連する知識を持っている情報の方が長期記憶に繋がりやすいのです。そのため、英文法などもただ暗記するのではなく、英語史というストーリーを伴って覚えることによって、より確実に記憶に留めることができるようになると考えられます。これは、数学の学習でただ公式を暗記するよりも、公式の証明方法を学ぶことが、公式を身につける近道になるのとも同じ理屈ですね。

 また、英語史を学ぶことによって、文法的な例外とされてきた部分に対して、論理的な説明が与えられたり、関係がないと思われていたいくつかの事項の間に関係性が見出されることもあります。こうした説明は文法書で見ることは滅多にないため、英語史を学ぶことによってのみ得られるメリットになるでしょう。

 逆に、英語史を学ぶデメリットも考えてみましたので紹介します。

英語史を学ぶデメリット
  • そもそもある程度の語彙力・文法規則への知識が必要とされる
  • 英語史を学ぶことで、結局ルールが存在しないことが分かって悲しい気持ちになることがある
  • 深く理解しようとすればするほど、言語学・英語学に関する知識が要求される

 簡単に言えば、メリットで見た通り、英語史は「より深く英語を理解する」ための方法のため、学ぶために一定以上の英語力を要求しています。そのため、この記事も「中級者・上級者向け」とタイトルに書いているわけですね。また、英語史も万能ではなく、深い部分まで理解するには言語学についても理解する必要があります。ただ、このブログ内では、言語学の知識が一切ない英語学習者の方に楽しんでもらえる内容に特化して執筆していくのでご安心ください

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3.英語史について学んでみよう

 さて、英語史を単に勧めるだけでは味気ないですし、いくらお題目を唱えてもその凄さや面白さが分かってもらえないかと思いますので、1つ具体的な例を出しましょう。百聞は一見にしかずというやつですね。今回は、我々が今用いている英語の語彙がどのように発展してきたかについて紹介することで、「なぜ英語には類義語が多く存在しているのか」という疑問を解決していきましょう。

 まず、歴史的に見て英語という言語は印欧語族インド・ヨーロッパ語族)に属しており、下の図で色がついている地域用いられている印欧語族に属する言語は全て、印欧祖語と呼ばれる1つの言語から派生したと考えられています。その中で、英語は現在のドイツ北部やデンマーク南部にいたアングル人、サクソン人、ジュート人(後のアングロ・サクソン人)の言語として誕生しました。初めヨーロッパ大陸上にいた彼らは、西暦449年からブリトン人が暮らしていたブリテン島を侵略し、支配するに至ります。

英語史によるインド・ヨーロッパ語族の分布
インド・ヨーロッパ語族の分布(リンク元)

 そのため、初期の英語(古英語といいます)の語彙はこのアングロ・サクソン人の使っていた語彙(ゲルマン系語彙:上図の赤い部分がゲルマン語のグループ)に集中していました。しかし、英語はここから数多くの言語から、借用語と呼ばれる語彙を取り入れて複雑化していきます。まず最初の流れとして、キリスト教の信仰がブリテン島に広く伝わるようになった7世紀半ば以降、教会で用いられる用語を中心に、カトリック教会の言語であったラテン語の語彙が導入されていきました(angel, demon, grammar, master, priest, schoolなど約450語)。

 世界史でも習うことですが、8世紀後半から、北ヨーロッパにいたヴァイキングがブリテン島を襲うようになり、特にデーン人と呼ばれる一派がイングランドに定住するようになりました。そのため、英語の語彙は彼らの言語である古ノルド語の影響を受けるようになります。これらの語彙には我々が日常的に多く使う単語が多く含まれています。例えばboth, call, die, egg, get, give, hit, raise, same, seat, seem, sky, take, their, them, they, though, want, wrongなどで、約2000語が借用されました。

 1066年にはノルマンディー公ウィリアムによる有名なノルマン=コンクェスト(Norman Conquest)が起こり、イングランドにはノルマン朝が成立します。ノルマン朝の時代の国王はイングランド王を名乗った一方で、ノルマンディー公としてはフランス王の臣下であるという関係にあったため、ノルマン朝の宮廷ではフランス語が話されるようになります。その結果、この時代のイングランドでは英語よりもフランス語の方の地位が高くなり、多くのフランス語に由来する言葉が英語に輸入されるようになります。この時代からは古英語に対して中英語と呼ばれるようになり、なんと1万近くの単語が英語に借用されることになります。古英語における借用語は教会で使う用語や日常語に限定されていたのですが、この時代のフランス語に由来する言葉は非常に多岐にわたっており、現代でも多くの語彙として残されています。

 また、中世における学術語であったラテン語や、交易により近隣地域であるオランダ語などからの語彙も英語に導入され続け、英語はさらに豊かな語彙を持つ言語へと成長していきました。

 近世に入り、ルネサンスの時代となると古典古代への関心が高まり、当時の知識人層はその影響でラテン語・ギリシア語という古典語を英語の中に用いるようになります。この時代からの英語は近代英語と呼ばれますが、この時代にはラテン語・ギリシア語からの借用語が一気に増加していきます。なんと、16世紀の後半だけでも12000語以上のラテン語由来の単語が英語に入ったとされるほどです。しかも、これらの借用語の多くは専門的な語彙であり、学者たちの間でのみ通用する難解語でした。また、ヨーロッパとの交易を通じてフランス語・スペイン語・ポルトガル語といった当時の先進地域からの語彙が輸入されていきました。

 ここまで見てきて分かったかと思いますが、英語は当時の支配関係や学術的な上下関係に基づいて多様な言語から多くの語彙を輸入してきました。逆に言うと、イギリスは近代以降、多くの植民地を抱える大帝国となり、現代にまで繋がる強大な英語圏を形成するようになっていくため、英語は他の言語から語彙を輸入する立場から、語彙を輸出する立場になっていきます。もちろん、英語も世界中の言語からの影響を受け、現代でも多くの借用語は誕生していますが、そのスピードはルネサンス期までと比べれば非常に緩やかになっていると言えます。

 さて、ここまでの説明を通じて、「なぜ英語には類義語が多く存在しているのか」という問いの答えは何となく分かって頂けたかと思います。その答えはつまり、英語は複数回に渡り、複数の種類の言語から語彙を輸入し続けてきたため、英語は非常に類義語の多い言語になったためになります。例えば同じ「助け」であっても古英語ではhelp、中世に借用されたフランス語ではaid、近世になってから借用されたラテン語ではassistanceというように、起源の異なる類義語が英語には多数観察されます

 ただ、これらの単語を見てもらうと分かってもらえるかと思いますが、基本的には古英語に由来する語彙は最も広い意味を持ち、様々な場面で使うことができる一方で、フランス語由来の語彙、ラテン語・ギリシア語由来の語彙になるにつれて難しい語になっていきます。これらの単語は専門性が高く、学術論文などの権威が求められる場面でより多く用いられる語でもあります。

 そのため、中級から上級レベルの英語の語彙力を身につけるにあたっては、これらのフランス語・ラテン語・ギリシア語由来の難しい単語を覚えていく必要があるのですが、これらの語彙には音節数の多い単語が多く、語源を利用した学習が非常に有効になります。中級・上級の英語参考書では語源で英単語を覚えることが推奨されるのも、こうした英単語の多層性に由来すると言えるでしょう。

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4.おわりに

 この記事を通して、英語史の学習が学習者の皆さんにとってどのような意味を持つのかを理解してもらえれば幸いです。今後も英語史に関する面白いテーマがあれば紹介したいと思っています。また、最後で触れた語源から英単語を学ぶ手法についても記事を書いていきたいです。

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参考文献

 堀田隆一『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』研究社、2016年

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