1.はじめに
ごきげんよう!椎名まつり(@417matsuri)です。今回の記事は2021年1月16日に実施された大学入学共通テスト(本試験)の英語リーディングについて書いていきます。
今回の大学入学共通テストにおける英語のリーディング試験については新傾向の問題が多く、ネット上の反応では難化したという声も聞かれました。この記事では、試行調査の問題やこれまでに大学入試センターが発表した資料を踏まえて、大学入学共通テストの英語リーディングの問題について、徹底的に分析をしていきます。
この記事では問題の全体を概観するために、今回のテスト問題の形式と特徴を紹介し、どういった能力が求められていたのかを解説していきます。また、今回想定される平均点を説明していきます。今回の共通テストを受けて情報を求めている受験生の皆さんや来年受験を控えた2年生の皆さん、高校などで英語を教える教員の皆さんに有益な情報になっていれば嬉しいです。
なお、2021年度の共通テスト英語リーディング問題の解答・解説と2022年度以降に向けた対策方法については別記事で紹介しています。以下の記事も合わせてご覧ください。
2.英語リーディングの問題形式・特徴
Ⅰ.英語リーディングの問題形式
それでは、2021年の共通テスト英語リーディング問題を紹介していきます。まず、最大の変更点として、今回からは発音・アクセントや文法を問う単独問題が廃止され、長文の読解問題のみが10題出題されました。
総語数については全体で5340語、問題と選択肢を除いても約3900語となり、前回のセンター試験より1000語以上の増加となっています。逆にマーク数は昨年の54から47に大きく減少した上、後述の並べ替え問題が2題出題され、5つの選択肢から2つある正解を両方選んだ場合のみ得点を与える形式も出題されたため、総問題数は50問から39問へと大きく減少しています。発音・アクセント、文法問題がなくなった分問題数が減り、1問1問の重みが大きくなりました。
以上の点については、これまでの試行調査とほとんど変わらない形式・分量であり、多くの受験生がこの形式に備えて準備をしてきたところかと思われます。しかし、総語数の増加など、これまでのセンター試験に比べて問題自体が難しくなったことは間違いがありません。
<共通テスト 英語リーディングの出題形式>
1.発音・アクセント、文法の単独問題廃止
2.総語数はかなり増加したが、問題数は減少
こうしたデータを踏まえ、以下では全体の問題の形式や特徴を解説していきます。まずは各大問の概要と語数・CEFRレベルをまとめたデータをご覧ください。CEFRレベルについては試行調査で公開されたデータと今回の試験を比較検討することで、筆者が予想したものになります。
問題概要 | 本文 単語数 | 設問選択肢 単語数 | CEFRレベル | |
第1問A | スマートフォンでのチャット | 156語 | 58語 | A1 |
第1問B | ファンクラブのウェブサイト | 272語 | 95語 | A2 |
第2問A | バンド大会の結果表と講評 | 248語 | 164語 | A1 |
第2問B | オンライン掲示板のやり取り | 292語 | 162語 | A2 |
第3問A | 旅行サイトの質問コーナー | 271語 | 91語 | A1 |
第3問B | 校内ニュースの記事 | 225語 | 105語 | A2 |
第4問 | メールのやり取りと図表 | 570語 | 118語 | B1 |
第5問 | 物語文からプレゼン作成 | 689語 | 274語 | B1 |
第6問A | 説明文からポスター作成 | 648語 | 209語 | B1 |
第6問B | 説明文の読解 | 554語 | 204語 | B1 |
それぞれのCEFRレベルについては上のリンクのデータの他、過去の記事で具体的に何が出来るのかを紹介しているので、興味のある方や英語教育者の皆さんは以下のリンク記事からリーディングに関する能力のレベルを理解してもらえると、より分かりやすいかと思います。
Ⅱ.英語リーディング問題の特徴
さて、ここからは今回の共通テスト全体に通じる特徴を解説していきましょう。今回の共通テストでは「思考力・判断力・表現力」を試す問題が増えたということ、「『どのように学ぶか』を踏まえた問題の場面設定」が存在することが大きなポイントになります。
まず最初のポイントである「思考力・判断力・表現力」というのは学習指導要領において高校生が身につけるべき資質・能力とされており、特に「思考力・判断力」が英語リーディングの問題では重要になってきます。
また、2番目のポイントについては、大学入試センターが「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針」・「出題教科・科目の問題作成の方針」に掲げたものであり、10本の英文でそれぞれ異なる場面、異なるジャンルの文章を読ませていること、資料やデータの考察が入ってくる点などはこうした方針に沿った内容になります。
それでは、こうしたポイントが具体的に今回の共通テスト英語リーディングの問題ではどのように反映されているのかを見ていきましょう。ここから説明が長いので、簡潔な要約を先にしてから、個々の部分を見ていきましょう。
<共通テスト 英語リーディングの特徴>
1.「思考力・判断力・表現力」を試す問題が出た
→複数の情報源を見る必要のある問題、「事実」と「意見」を区別する問題、順序を解答する問題、図表を完成させる問題が出題
2.場面設定がより重要になった
→リード文で状況が説明されたほか、アメリカ英語だけでなく、イギリス英語も使われるようになった
A.「思考力・判断力・表現力」を試す問題
まずは「思考力・判断力・表現力」という観点から問題を見ていくと、まずは2つ以上の情報源(テキスト・図表)が1つの問題の中に含まれている形式が、4つの長文(第2問A・B、第3問Aと第4問)で出題されている点が特徴的です。この形式は試行調査から出題されていたので多くの受験生が対策していたと思われますが、1つの文章から内容を探す問題より解答の根拠になる部分を探すことが難しく、高い思考力・判断力が試されるため、得点の差が開きやすかったと思われます。
また、第2問A・Bでは「事実(fact)」と「意見(opinion)」を区別する問題、第3問B・第4問・第5問では順序を解答する問題が出題された点が第二の特徴です。これらの問題も思考力・判断力を問う問題であり、ただ問題文に書かれているかどうかを判断するだけで解くことができた、過去のセンター試験とは大きく毛色の異なるタイプのものになります。
「事実」と「意見」を区別する問題を解くためには、文のスタイル(文型・助動詞の有無など)に着目して読む必要があるほか、どのようなニュアンスが文章に込められているのかを理解する必要があります。このタイプの問題を攻略するには、文章の表層をスキャニングして該当箇所を探す、従来的な英語の問題の解き方が通用しません。文章を読んで該当箇所を見つけた上でその文が「事実」なのか「意見」なのかを峻別するための高い判断力が必要になる問題です。
また、順序を解答する問題を解く際には、文章の流れを追うだけでなく、時系列も同時に理解する必要があることがポイントです。文章に書かれる順序と実際の時系列が異なっているため、これらは思考力を試すタイプの問題になります。
さらに、図表を活用した問題が第5問と第6問A・Bでは出題されており、共通テストでは文章を別の形でまとめ直す力、つまりは表現力が求められているということが第三の特徴です。単純に該当箇所を見つけるというよりは、文章の内容全体を理解した上で再構成する必要があり、こうした問題もこれまでのセンター試験の対策だけでは対応しづらい部分になっていました。特に、第5問と第6問はCEFR B1レベルの問題で、全体の中でも難しい問題になっていました。
B.場面設定を前提にした問題
続いて、もう一つの大きな特徴である「『どのように学ぶか』を踏まえた問題の場面設定」についてより詳しく見ていきましょう。これについては、大学入試センターが事前に公表した資料からいくつかのポイントを読み取ることができるので、今後の受験生のために、簡単にまとめておきます。
まず、今回の問題はCEFRの「A1からB1レベルに相当する問題を作成」し、「実際のコミュニケーションを想定した明確な目的や場面、状況の設定を重視する」ことが掲げられています。また、「様々なテクストから概要や要点を把握する力や必要とする情報を読み取る力等を問うことをねらいとする」とある通り、10本の英文はそれぞれ異なる場面が想定されています。
また、センター試験においても問題の前にリード文が付くことがあったのですが、共通テストでは全ての問題に詳細な場面設定の文がついており、問題を解く際に役立つ情報(登場人物の名前や資料の種類、文章を読む上で必要な背景知識)を得ることができるようになっています。
もう一つ、場面設定に関連する重要なポイントとして、イギリス英語の使用が挙げられます。別の資料で告知されている通り、大学入学センター試験では完全にアメリカ英語が使用されていましたが、「共通テストでは…(中略)…場面設定によってイギリス英語を使用することもある」という指針が以前に出されていました。そのため、今回の共通テストリーディングでは第2問A・Bと第3問A・Bにおいてイギリス英語が用いられています。
ただ、アメリカ英語とイギリス英語の違いについては、今回のテストでは一部の単語(realize/realiseやcenter/centre)のスペリングや用法(アメリカでは校長を表すのにprincipalを使うが、今回の第2問Bではイギリス英語のhead teacherを用いた)が異なる程度で、リーディングにおいてはさほど気にならなかったかと思われます。
3.予想される平均点(結果追記あり)
ここまで共通テストの英語リーディング問題全体を概観し、特徴などを解説していきました。共通テストはセンター試験とは大きく異なるタイプの試験であり、一概に難化、易化という言葉で説明することは難しいのですが、平均点自体はセンター試験からは大きく下がることが想定されます。
理由の1つは、これまでも繰り返し分析に使用している試行調査には目標平均点が存在しており、それが5割であったことにあります。また、実際の試行調査の平均点は約51点で目標を達成していました。詳細についてはこちらのPDFファイルをご覧ください。そして、今回の共通テストは試行調査の形式やレベルを概ね維持しており、全体の平均点はやはり5割前後になることが想定されます。
一方のセンター試験(英語筆記)の平均点はというと、過去3回の平均点は100点満点に換算したとき58.15点、61.65点、61.87点と約6割であり、約5割の平均点が予想される共通テストよりは易しい試験であったと言うことが出来るでしょう。
ただし、得点の分布については注意する必要があります。それは共通テストが最高でもCEFR B1レベルを対象としている点です。以前の記事でも紹介したのですが、これまでの大学の個別入試では上位の大学を中心にCEFR B2レベルが求められており、上位の受験者層はセンター試験時代と同様に共通テストにおいても9割以上の高得点を出し続けることが想定されます。
そのため、共通テストによる入試では平均点こそ下がるが、それはCEFR B1レベル以下の英語力を要求する中下位レベルの大学を志望する生徒にとってボーダーラインが下がる結果となる一方、CEFR B2レベル以上の英語力が求められる上位大学の受験層は変わらず高得点を取り続けると予想されます。大学別に求められているCEFRレベルについては以下の記事を参考にしてください。
追記
公表された平均点は58.8点と、約6割の数字になっていました。過去に実施された共通一次試験やセンター試験の初年度が易しい傾向にあったことも踏まえると、2022年度以降の大学入学共通テストは難化することが予想されます。詳細はこちらの記事にて考察しています。
4.おわりに
この記事を通して、大学入学共通テストの英語リーディング問題についてより深く理解することができたでしょうか。各設問の解説は以下の記事をご覧ください。
今年度より大学入試センター試験に代わって共通テストが始まったわけですが、英語における外部検定試験の導入や国語・数学における記述式問題の導入といった目玉となる部分が検討過程で削除され、センター試験と変わっていないという批判も一部には出ているようです。しかし、今回のテストでは問題形式も問われる力も大きく変化しており、今後の受験生の皆さんは試験の特徴をよく理解した上で英語の学力を高めていくべきでしょう。
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